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「週刊正論」

韓国への「対抗措置」を巡る大いなる誤解㊤

◇大きな誤解

韓国に対する「輸出規制強化」が日韓双方で大きな波紋を呼んでいる。

2019年7月6日、韓国KBSのニュース番組は、トップニュースで日本の対応をこう報じた。

「ホワイト国から韓国が除外されたら、輸出規制の対象は現行の3品目だけでなく、産業全般に広がることになります。…軍事物資として転用される可能性がある品目について、輸出ごとに許可の申請が必要となります。規制の対象となる品目は1100にのぼるとされています」

後に説明するが、これは誤報である。今や日韓双方で、誤解に誤解が上乗せされ、歯止めがかからない。韓国国民は日本製品の不買運動すら展開し始めている。誤報の一端は、安倍政権の発信が曲解されたことにある。

菅義偉官房長官は2019年7月2日の記者会見で、日本政府が韓国に対する輸出管理の「制度運用の見直し」を決めた理由について、朝鮮半島出身労働者問題での韓国に対する「対抗措置ではない」と明言した。その上で、①日韓関係に対する「韓国側の否定的な動き」が相次いでおり、朝鮮半島出身労働者問題を巡り韓国政府から、先に開催されたG20大阪サミットまでに「満足する解決策が示されなかった」こと②日韓両国間の「信頼関係が著しく損なわれ」、「韓国とは信頼関係の下で輸出管理に取り組むことが困難となっている」ことを述べた。

河野太郎外務大臣も同日の記者会見で、「対抗措置ではない」と明言している。その上で、「日韓様々な問題がある中で,きちんと切り離すものは切り離して」と朝鮮半島出身労働者問題とは全く別の問題であると重ねて確認している。

このように、今回の措置が朝鮮半島出身労働者問題に関する韓国への対抗措置との見方を政府が否定しているにもかかわらず、それが背景にあるかのように韓国側が曲解し、今回の措置があたかも韓国に対する事実上の制裁であるかのごとく報じている。

だが、もとより輸出管理と朝鮮半島出身労働者問題との間には、何の関係もない。日本の輸出管理の目的は、あくまでも軍事転用可能な貨物・技術の、北朝鮮などの安全保障上懸念のある国々やテロ組織への流出防止である。

今回の措置に踏み切った理由は、韓国の輸出管理への取り組みに対する懸念、の一点に尽きる。たとえ、いつか徴用工問題の解決に向けて進展が出てきても、それを理由に今回の措置をもとに戻すわけにはゆかない事情がある。

◇真の問題は、韓国の輸出管理体制の緩さ

経産省が韓国に対していわゆる「ホワイト国」という一部の欧米諸国と同等の輸出管理上の扱いを認めたのは2004年のことである。しかし、それ以降、日本の輸出管理関係者の間では、韓国企業の輸出管理体制やその運用が緩すぎるとの懸念が根強くあった。

韓国国内には、北朝鮮と長期間取引していた企業が少なからずある。韓国企業の輸出管理が甘いということは、すなわち日本から輸出された軍事転用可能な物資・技術が、韓国経由で中国や北朝鮮等に流出されかねないリスクがある、ということだ。

実際、過去にはそのような例が複数、確認されている。例えば、2008~2010年の間、日本から韓国経由で、中国に対して炭素繊維が不正輸出された事件や、北朝鮮に対してミサイル運搬等に転用が可能な大型タンクローリー(輸出管理規制対象)や高級乗用車、ノートパソコンなどが不正輸出された事件等、複数の事件が日本国内で摘発され、立件された。

今回、世耕弘成経済産業大臣も7月3日のツイートで、「近時、今回輸出許可を求めることにした製品分野で韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生している」と述べていた。詳細は不明ながらも、4日より韓国向け輸出の規制が変更された、軍事転用可能品であるフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目に関する事案と思われる。もし「不適切な事案」の原因が、日本企業側の輸出管理面での不備であれば、その日本企業が処分されるべきであり、輸出先である韓国の輸出管理上の扱いを変える必要などない。これらの事案は韓国側の管理体制等に起因する問題であることが推測される。

これに関連して、自民党の萩生田光一幹事長代行は4日夜に出演したテレビ番組「BSフジLIVE・プライムニュース」で、過去に韓国に輸出した化学物質のうち、「(化学物質の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだから、こうしたことに対して措置をとるのは当然だと思う」と述べている。

韓国側の輸出管理体制の緩さこそが、今回の措置の基底にあるのだ。安倍政権は、朝鮮半島出身労働者問題などと関連しているかのような印象を与えたり、韓国側に論点のすり替えや責任転嫁をする余地を与えたりするべきではない。

◇文在寅政権下で途絶えた日韓輸出管理協議

韓国政府(特に文在寅政権)は、北朝鮮の密輸に協力していた韓国国内の企業や個人を摘発しても、それらの企業や人物の情報を隠蔽する事例が数多く見受けられる。特に2018年以降、北朝鮮船舶との洋上での石油精製品の瀬取りや密輸に協力した容疑で複数の韓国企業が捜査された場合でも、企業名や容疑者の氏名は公表されていない。

例えば、2018年12月10日、韓国当局は、国連禁輸品である北朝鮮産の石炭や銑鉄をロシア経由で韓国に不正輸入していたとして、韓国人4人と韓国の貿易会社5社を起訴した。だが、文在寅政権は司法手続きを理由にこれらの企業と個人の実名を公表しておらず、メディアなどに対しても名前を公表しないよう圧力をかけていた。密輸事件を調査した韓国人研究者によると、「名前がわかっているのに、それを公表すると告訴される」と憤りを隠せない様子だった。

韓国当局が起訴したうちの少なくとも1社は、自社のホームページで2008~2009年ごろに日本支社を設立していたことを宣伝している。他にも、瀬取りや北朝鮮産石炭等の密輸事件に関わっていた韓国企業が複数社あり、日本企業が知らずにこれらの韓国企業と取引をしていた可能性がある。

以前ならば、日本は韓国との輸出管理協議を通じて、このような問題について是正を求めていたが、文在寅政権とは対話ができておらず、懸念を払拭できない状態が続いていた。このため、韓国への優遇措置の解除に至ったというのが、今回の措置の主な背景である。

世耕経済産業大臣は7月3日付けのツイートで次の点にも言及している。

「従来から韓国側の輸出管理(キャッチオール規制)に不十分な点があり、不適切事案も複数発生していたが、日韓の意見交換を通して韓国が制度の改善に取り組み制度を適切に運用していくとの信頼があったが、近年は日本からの申し入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会がなくなっていた」

7月4日、韓国の産業通商資源省は、日本政府に対し今回の措置の撤回や2国間協議に応じるよう求めることを決定した。そもそも、文在寅政権が2国間協議を受け入れていれば、こんな事態には至っていなかったはずだ。

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著者略歴

  1. 古川勝久・元国連安保理北朝鮮制裁専門家パネル委員

  2. 森本正崇・慶應義塾大学法学部非常勤講師

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