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「週刊正論」

韓国への「対抗措置」を巡る大いなる誤解㊦

◇日本の措置を巡る基本的な誤解

日本国内でも韓国に対するいわゆる「輸出規制強化」を巡って大きな誤解が生じている。2019年7月1日、経済産業省が発表した韓国に対する輸出管理面での措置は禁輸ではなく、「規制強化」ですらない。あくまでも、輸出管理の「運用の見直し」であり、韓国にこれまで認めていた優遇措置のうち、たった3品目に関する措置を解除したに過ぎない。解除された韓国向け輸出にしても、台湾やASEAN諸国と同等の扱いになるということである。ゆえに、それがもたらす経済的なインパクトを過大評価するべきではなかろう。全体としてみれば、韓国は依然として台湾やASEAN諸国よりも優遇された状態である。

この点を理解するために、まずは今回の措置の前提となる日本の輸出管理制度について理解する必要がある。以下、簡単に説明しよう。輸出管理は外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて行われており、以下の2つの規制から成る。

【日本の輸出管理規制】
リスト規制:軍事転用可能な物品や技術の中でも、特定の品目やスペックを輸出する場合には、原則輸出許可の取得が必要とされる。これらの物品や技術は、政令や省令等で定められている。

キャッチオール規制:リスト規制で定められていない物品や技術であっても、兵器目的で転用されることがあり得る。例えば、国連専門家パネルの報告書によると、北朝鮮は先進国から汎用品の電子部品や金属などを中国経由等で調達して、弾道ミサイルなどに用いてきたとされる。このため、海外の取引相手(需要者)や取引目的(用途)によっては、経産省の輸出許可が必要になる場合がある。つまり、通常、そのような輸出に許可は不要だが、兵器転用の懸念が払しょくできない取引についてのみ、輸出許可が必要になる。

次に「輸出許可」について、基礎的な情報を概説する。

【輸出許可】
輸出許可の申請者:経産省に輸出許可を申請するのはあくまでも日本企業であって、海外企業ではない(今回の日本政府の措置で手間が増えるのは、あくまでも輸出申請を行う日本企業と、それを審査する経産省であって、韓国企業ではない)。

個別許可と包括許可:輸出許可には「個別許可」と「包括許可」の二種類がある。原則は個別許可であり、日本企業は、海外の顧客との輸出契約ごとに、経産省から輸出許可を取得する(出荷ごとではない)。これに対して、契約にかかわらず一定期間(3年間)、ずっと利用可能な許可を「包括許可」という。包括許可には複数の種類があるが、これを取得したからといって、日本企業がなんでも自由に輸出できるわけではない。いずれの包括許可でも、輸出される物品・技術および輸出先次第で、利用できる場合とできない場合が厳密に定められている。ゆえに、ある日本企業が特定の包括許可を取得しても、輸出する物品や輸出先によっては別途、個別許可が必要とされる。複雑な制度である。

輸出許可の有効期限:輸出許可は契約単位で下りる。通常、一度、許可を得れば、契約に基づく貨物であれば、原則としてその有効期間中に何回でも輸出が認められる。例えば、韓国企業との年間契約に対して輸出許可が下りれば、日本企業は契約に基づく貨物を毎月、輸出することが可能となる。貨物を輸出する都度、経産省の許可を得なければならないわけではない。

以上を踏まえたうえで、2019年7月1日、経済産業省が発表した2つの措置について見てみよう。メディアでは、両者が混同されて一つの措置であるかのように報道されがちだが、これらは区別する必要がある。

【経産省発表の措置】
1.韓国の「ホワイト国」からの削除
これは現在(7月7日現在)意見募集中の措置で、実施の可否も含めて検討中である。「ホワイト国」とは、大量破壊兵器拡散の懸念がなく、キャッチオール規制の対象とはならない国をさす。欧米諸国を中心に韓国を含む27カ国が対象になっている。言い換えれば、キャッチオール規制で懸念されるような取引を行っていない国、または仮にそのような取引があっても「ホワイト国」の政府当局が適切に対応することが期待できる国である(ただし、「リスト規制」はホワイト国にも適用されるため、例えば特定の機微な物品をホワイト国の一つである米国に輸出する場合でも原則的には許可が必要となる)。ホワイト国とみなされるためには、その国が国際的な輸出管理の枠組み(輸出管理レジーム)に参加し、すでにキャッチオール規制を実施していることが必要最低条件である。加えて、実際に厳格な輸出管理を実施し、実効性あるかたちでキャッチオール規制を履行していることも重要である。

規制の実効性は非常に重要な要素だ。世耕大臣は7月3日のツイートで、韓国にはキャッチオール規制の実効性の面で問題があり、「不適切事案も複数発生していた」と指摘している。

キャッチオール規制とは、干し草の中から針を探すような作業である。国際的な物流の中から、懸念がありそうな取引をピンポイントで探しだすには、政府間の協力が欠かせない。韓国政府とそうした協力関係が構築できていないのであれば、ホワイト国から除外するのはやむを得ない措置と言える。

韓国がホワイト国から外れた場合、日本企業は韓国側との個別の契約案件ごとに、「果たしてキャッチオール規制に関する輸出許可が必要となるか」、自分で確認しなければならない。この分だけ日本企業の手間が増える(手間が増えるのはあくまでも日本企業と経産省であって、韓国企業ではない)。ただし、キャッチオール規制で許可が必要になる輸出は実際には極めてまれであり、許可申請件数はほとんど増えないと思われる。

冒頭に紹介した韓国KBSの「ホワイト国から韓国が除外されたら…規制の対象となる品目は1100にのぼる」との報道はそもそも誤りである。キャッチオール規制の対象はリスト規制の対象以外のほぼ全てのあらゆる物品に及ぶので、「1100品目」だけにとどまらない。ただ、先述の通り、許可が必要になるのは、取引相手(需要者)や取引目的(用途)に懸念がある場合に限られるので、輸出許可が必要とされるケースはまれである。しかも、輸出申請の事務を行うのは日本企業であって、韓国企業ではない。

なお、日本にとって「ホワイト国」は現在、27カ国であり、貿易相手国の大半が「非ホワイト国」である。もし韓国がホワイト国から除外されても、対韓輸出にかかる手続きがノーチェックではなくなるだけで、それでもASEAN諸国や台湾向けの輸出に比べれば事務手続き面での負担は軽い。繰り返しになるが、手続きの負担を負うのは、あくまでも日本企業と経産省であって、韓国企業ではない。

2.軍事転用の可能性がある特定3品目の許可制度の変更

もう一つ経産省が発表したのは、「リスト規制」に関する措置である。軍事転用可能なフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目について、これまで韓国向け輸出に対して包括許可を認めていたのを個別許可へと切り替えた。尚、製品に加えて、これらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)も輸出管理規制の対象である。3品目の個別許可への切り替えは、すでに7月4日より実施されている。フッ化水素は、化学兵器(神経剤)の原料となりうるものとして規制されている。フッ化ポリイミドは、電子機器の絶縁体に使われる汎用品であり、民生目的での使用以外にも様々な軍事用途がある。レジストは半導体材料であり、こちらも通常兵器の輸出管理リストで軍民両用の電子製品として輸出規制の対象とされている。いずれの品目も輸出管理レジームで規制に合意しており、これらに参加している韓国でも輸出許可の対象のはずである。

もとより、これら3品目については、ホワイト国向けも含めて、輸出の際には経産省の輸出許可が必要とされる。原則としては個別許可だが、特定の国々向けの輸出の場合のみ、包括許可(3年間有効)が認められている。この度、韓国向けについては、3品目についてのみ、包括許可が認められなくなったわけだ。それでも今回の措置は禁輸ではない。また、韓国への輸出の際、輸出許可が必要な状況は以前と変わりない。ただ個別許可が必要になるので、許可申請件数が増えることになる。こちらでも、日本企業と経産省の手間が増える、ということだ。

包括許可について厳密にいうと、包括許可の利用可能な輸出先国の区分は、輸出品目に応じて細かく分かれており、「ホワイト国」・「非ホワイト国」の区分とは異なっている。これらの3品目については、包括許可が認められる輸出先国の中に、「ホワイト国」と全く同じ構成の国々からなる区分があった。今回の措置により、ここから韓国だけが除外され、韓国は別の新しい区分(といっても韓国だけしかない)に分類された。

さらに、3品目以外の物品の韓国向け輸出については、これまで包括許可が認められていた物品であれば、今後も引き続き包括許可が利用できる。

尚、ホワイト国や包括許可対象国の選定に関する国際的な決まりはない。各国が自国の裁量に基づき国内法の下、輸出管理を運用しており、今回の措置が国際法違反でないことは明白である。

新しい輸出管理措置の運用なので、今後、経産省と日本企業の業務量が増えて、数カ月間は事務がスムーズに進まない可能性はある。だが、だからといって韓国経済に大打撃を与えるというのは、問題を誇張しすぎているのではないだろうか。事実、より厳しい扱いを受けている台湾やASEAN諸国では、そのような打撃など起きたことがない。

◇厳格な輸出管理とは

経産省の輸出許可申請の審査は複雑かつ精緻であり、どの国向けの貨物であれ、あくまでも「兵器転用の懸念を払拭できるか」との観点で審査が進められる。もし審査官が、韓国向けの貨物だけを狙い撃ちして、不要に審査期間を長引かせる(サボタージュする)のであれば、それはシンプルに違法となる。輸出申請をした日本企業からクレームが入るだけでなく、経産省が提訴されるリスクも当然ある。例えるならば、警察官が、罪を犯したかどうかにかかわらず、韓国人とあらば誰でも捕まえて尋問し続けるようなものだ。日本は法治国家であり、そんな不正行為は許されない。

そもそも経産省の審査員の人数が増えるわけではなく、輸出許可申請件数だけが増えるので、経産省にはそんな不正行為を行う余裕などあろうはずもない。

もちろん、今後の審査の過程で、経産省が韓国との取引に対して輸出許可を与えないケースは出てこよう。それは、「その取引から、兵器転用の懸念を払拭できなかった」、ということであり、輸出先の韓国企業またはその特定の取引に問題がある、ということだ。その場合、日本企業は他のまっとうな企業と取引すればよい。

輸出管理体制がしっかりしていない韓国企業とは、そもそも取引などするべきではない。仮に、韓国企業の輸出管理体制に問題があり、北朝鮮や中国等への物資の不正輸出の懸念が払しょくできないならば、そのような企業にはむしろ打撃を与えるべきである。さもないと、そもそも輸出管理をしている意味がない。

本来、この措置は、経産省が実務レベルで進めるべきであった。法執行である輸出管理行政を政治的な理由で恣意的に操れるかのような印象を与えてはならない。

◇輸出管理と「対抗措置」は切り分けよ

輸出管理は、兵器拡散阻止という安全保障政策の重要な政策ツールである。今回の措置の目的は、韓国が輸出管理上の懸念をいかに払拭できるか、という点に尽きる。朝鮮半島出身労働者問題等の日韓という二国間関係の問題とは関係していないし、関係させるべきでもない。今後、もし朝鮮半島出身労働者問題で進展があったとしても、それだけで韓国に対する輸出管理上の優遇措置を復活させてはならない。それは、輸出管理とは全く無関係の問題である。

安全保障上の措置は、それとして厳格に履行すべきであり、たとえ日韓関係が改善しようとも、兵器拡散の懸念が存在する限り、同様の措置が必要となろう。

法執行である輸出管理を、歴史問題等に関する対抗措置であるかのように吹聴することは、日本の安全保障を軽視していると同時に、法に対する無理解でもある。全く日本のためにならない。そのような対抗措置に関しては、今回の措置とは切り離して議論してもらいたい。

今や韓国では日本製品不買運動すら始まりつつある。やがて、今回の措置を巡る誤解が起因となって、日本企業にまでも悪影響が及びかねない。韓国政府が論点のすり替えや責任転嫁をすることなく、適切な対応を取ることを期待するが、日本政府も日本企業への悪影響を最小限にとどめるべく、可能な限りの施策を講じてもらいたい

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著者略歴

  1. 古川勝久・元国連安保理北朝鮮制裁専門家パネル委員

  2. 森本正崇・慶應義塾大学法学部非常勤講師

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