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「週刊正論」

「華為技術(ファーウェイ」に警鐘を鳴らしていた産経新聞記事を紹介

最近、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」について書いた記事を見ない日はないほど、同社に対する注目が集まっています。日本国内でも、「Huawei」と書かれた宣伝を空港で、駅構内で、ネット広告などで見かけますが、同社の孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダ国内で逮捕されたことで一気に関心を集めました。

いまや、米中対立の中心的要因に位置付けられている同社ですが、私が産経新聞副編集長だった5年前に、華為技術の存在がいずれ大きな問題になると予想し、長期連載企画「新帝国時代」(『貶める韓国 脅す中国』のタイトルで産経新聞出版から書籍化)で特集しました。シンガポールでの、ある米国人技術者の死をきっかけに同社に着目し、上海特派員に同社創業の地などを取材してもらいました。

以下、平成25年6月4日付の記事を再掲します。

■米技術者、謎に包まれた死
 ≪「命危ない気が」≫

シンガポールのチャイナタウンにある下級裁判所。5月15日、3階の15号法廷では、ある米国人技術者の遺体の写真がスクリーンに映し出され、犯罪科学捜査の専門家による証言が続けられていた
「寝室のドアの上部に留め金で黒い革ひもを固定し、白いタオルを首に巻き革ひもで首をつっている」
この技術者はシェーン・トッド(当時31歳)。チャイナタウンに近いアパートの自宅で遺体が発見されたのは、2012年6月24日夕のことだ。彼のパソコンからは、両親などに宛てた遺書が見つかった。警察は遺体に外傷がなく部屋に争った痕跡もないことなどから、自殺と断定した。

だが、父親のリチャード(58)と母親のマリー(57)は、息子の死に疑問を抱く。それは彼が生前、両親に「仕事が嫌だ。中国企業との協力を頼まれた。米国の安全保障を危険にさらすようで、命が危ない気がする」と打ち明けていたからだ。

「息子の死は多くの謎に包まれ、この裁判所での検視審問で死の真相を知りたい。華為(ファーウェイ)との関係もです」
法廷の外でマリーは吐露した。「華為」とは、米国などが安全保障を脅かす存在だとして警戒する中国の通信機器大手「華為技術」のことである。
電気工学の博士号をもつシェーンが勤務していたのは、シンガポール科学技術研究庁の傘下にあるマイクロエレクトロニクス研究所(IME)。世界的に脚光を浴びる次世代パワー半導体の素材である窒化ガリウム(GaN)を、シリコン上で拡張する技術の研究開発に携わっていた。GaN半導体は熱伝導率、放熱性、高周波動作に優れ、青色発光ダイオードや携帯電話などに使われている。問題はレーダーや衛星通信など、軍事技術に転用できるところにある。

IMEのGaN研究開発の責任者、パトリック・ロー・グオチャン(49)の法廷における証言では、IMEと華為との間には契約済みのプロジェクトが5件、契約へ向け交渉中の「潜在的なプロジェクト」が1件あった。GaN関連は交渉中のプロジェクトだけで、シェーンもこれに関与していた。

 ≪突然の交渉中止≫

「このプロジェクトは、GaNの拡張技術を使った増幅器を研究開発するものだった。IMEと華為の代表が11年7月18、19の両日に中国で会い、その後、シリコンウエハー上にGaNを結晶成長させるIMEがもつ技術についても、情報を提供した。シェーンは会議にも参加し、華為側に研究開発費として、180万シンガポールドル(約1億4480万円=記事当時)を提示した」

シェーンは、グオチャンのいわば“右腕”として動いていたのだ。だが、彼の死から間もない12年7月、華為は突然「目標が不明確だ」として降りる。この結果「プロジェクトは進まず、具体化しなかった」という。

グオチャンやシェーンの同僚は「プロジェクトは商業目的であり、IMEは中国との軍事プロジェクトには関与していない」と否定した。華為は産経新聞に「この件にはいかなる関係もない。IMEとの協力は標準、商業的な提携だ」とコメントしている。

21日、両親は「法廷は誠意に欠ける」と席を蹴った。家族側不在のまま続けられた検視審問の判断は、7月8日に出される。

                  ◇

■膨張「華為」に疑惑の目 「人民解放軍部隊へ特別な通信網提供」

携帯電話の基地局向け設備を中心に、スマートフォン(高機能携帯電話)市場に自社ブランドまで持つ華為技術。2012年の売上高が2202億元(約3兆6千億円=記事当時)と、世界最大手エリクソンと肩を並べるまでに成長した。始まりは中国・広東省深センにある古い集合住宅にある。

「14人の社員が1987年にこの場所で、資本金2万1千元(当時の為替レートで約35万円)で始めた民間企業です」

華為の広報担当、蔡旭(28)によると、創業者の任正非(にん・せいひ)らは建物3階の一角で、寝食をともにしながら製品の開発に没頭した。任はこの時、42歳だった。最高指導者・鄧小平の指示で中国が改革開放路線にかじを切った1980年、初の経済特区に指定された深センで、初めて民間事業の起業が許された。

創業当初、資金不足から社員への給与支払いもままならなかったため、任は給与代わりに会社の株を社員に分配した。現在も「非上場」の華為は、全世界約15万5千人の社員の半数近い約7万人が自社株を保有する。経営の独立性を貫き、今後も上場予定はない。

創業の地から北東に約20キロ。深セン市内の200万平方メートルの土地に建つ現在の本社は「キャンパス」と呼ばれる。緑の中に事務棟や研究棟、生産棟、社員寮などが整然と並ぶ。インド人や欧米人社員も珍しくない。約4万人がここで働く。会社に寝泊まりして開発に没頭した創業時の空気は「マットレス文化」ともいわれ、いまも続く。

創業の地を海外メディアに見せたのは産経新聞が初めてだといい、本社研究開発センター内部の取材と一部の写真撮影も許可した。新しいメディア戦略を始めたのは理由がある。急成長した華為への疑念が各地で広まってきているからだ。

 ≪「締め出し」勧告≫

昨年10月、米下院情報特別委員会がまとめた華為などに関する報告書が注目を集めた。報告書は元社員からの情報として同社が「中国人民解放軍のサイバー戦争部隊のえりすぐりの人物に、特別な通信ネットワークを提供している」と言及。華為などの機器を「社会基盤に供給することは安全保障上の利益を損なう危険性がある」とし事実上の「締め出し」を勧告した。

オーストラリアも昨年3月、ブロードバンド網整備計画から華為参入排除を表明。カナダも政府の通信ネットワークから華為を除外する措置をとった。任が人民解放軍出身であることも手伝い、中国によるサイバー攻撃や技術情報スパイなどで、華為の関与が疑われているのだ。

かねて華為製品をめぐっては、コンピューターに不正侵入するための「裏口」と称される不審なバックドアが見つかったとの証言が繰り返されている。ただ、バックドアが意図的に設置されたのか、技術的な欠陥なのかは未解明だ。また、欧州の通信会社の技術者らは「華為の機器は必要な送信データ以外に大量の不明な送信を発生している」と疑問を呈する。

一連の疑惑に対し、匿名を条件に取材に応じた華為技術の幹部は「誤解に基づくものだ」といらだちをあらわにした。記者に「なぜ米国が華為技術を嫌うのか?」と聞き、「それは華為が『中国の企業』だからだ」と自ら答えた。

某国の情報機関関係者はこうもらす。

「華為の脅威は確たるものだが、技術的な証拠となると、海を泳ぐ無数の魚の中から1匹を特定するようなものでなかなか難しい」

 ≪日本でも存在感≫

JR横浜駅近くの閑静なオフィス街の一角にあるビルに、日本政府当局者が関心を寄せる動きがある。華為が新たな拠点づくりを進めているからだ。

ビル管理会社の担当者は、「華為は19階に入る予定で、契約は数年先まで結んでいる」と話す。華為側もこの計画を認め、華為ジャパン社長、閻力大(えん・りだ)は現在約40人の技術者を「年末までに80~100人規模に増やす」と意欲を見せる。

華為が日本法人を設立したのは2005年。2年前に大手町に「日本研究所」を開設。技術者約40人の75%が日本採用だという。

閻は端末開発や通信設備で日本企業との協業を進めつつ「日本で得た成果をグローバル市場に生かしていく」のが狙いと話す。

順調に日本での存在感を増す華為。米国などとは違い、日本の国会で華為が正面から取り上げられたことはない。(敬称略)


掲載記事は以上です。トッド氏の死について、シンガポールの裁判所は結局、「首つりによる窒息死」として自殺との見解を示しましたが、「自殺」にみせかけた「殺人」ではないかとの見方は残っており、そう断定する人もいます。ファーウェイ社製のハードウェアで不正な通信があると突き止めたため、命を狙われたというのです。華為に対する疑念が広がるなか、シェーン・トッド氏が果たして「自殺」だったのか、それとも殺されたのか。再び関心が高まることも予想されます。

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著者略歴

  1. 有元隆志

    ありもと・たかし 産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人。1989年産経新聞社入社。政治部で首相官邸、自民党、外務省などを担当。2005年7月からワシントン特派員。13年10月政治部長、16年10月編集局総務、18年7月から現職

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