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小川榮太郎の「考へるヒント」

小川榮太郞氏 「次期自民党総裁選に望むこと」

次期自民党総裁選に望むこと


自民党総裁選が9月20日を軸に調整との報道があった。

安倍政権も5年半を超え、佐藤栄作、吉田茂政権に次ぐ長期政権となっている。当然、総裁選を巡る党内議論や世論が活発化することは歓迎すべきことだ。

しかし、総裁選を意識したと目される自民党要人クラスの発言があまりにも矮小なことが気になる。

総裁選出馬を目指していると思われる石破茂氏は、6月3日、鳥取市内で記者団に、安倍政権について「(内閣)支持率は不支持を下回っている。総理の言うことに信頼がおけるかということに相当多くの国民が信頼できないと言っている。

この状況が良くないことはみんな分かっている」と厳しく批判し、これに先立つ講演でも「間違っていることを間違っていると言うのは批判があるが、誰もそれを言わないと世の中の信望につながらない」と発言した。森友加計問題についての発言である。

小泉進次郎氏は、愛媛県文書に書かれている学園理事長と安倍晋三首相の面会を学園側が「なかった」と説明していることについて、「どう考えても、『愛媛県にうそをついた』というのはおかしい。(国会に)特別委員会を立ち上げてほしい」と述べたという。(6月6日朝日デジタル配信)

6月10日に青森県で講演した際にも、森友・加計問題などについて「一つのことにおかしいと言えなくなると、だんだん口をつぐむことに慣れてしまう。そうなったら終わりだ」と述べている。

久々の竹下派復活を果たした竹下亘・自民党総務会長の発言も見てみよう。

「国会をみていると、加計・森友学園問題、自衛隊の(イラク派遣時の)日報をめぐる問題、(財務省の福田淳一・前事務次官の)セクハラを巡る問題等々、自民党にとっていい話ではない。たしかに役所が改ざんをしたり、日報を隠したり、いろんなことをしたということはあるが、責任を取るのが政治の仕事だ。そうした役所の不祥事、役人が犯したいろんなことも、最終的には内閣総理大臣である安倍晋三総理の責任だ。」(松江市であった自民党島根県連大会のあいさつで)

確かに自民党総裁選は伝統的な意味で自民党の政局であるのは事実である。

しかし、森友・加計問題は、昨秋に拙著『徹底検証森友加計事件 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)で明らかにしたように、朝日新聞が主導し左派メディアやテレビが追随した「安倍疑惑の捏造」だ。

1年4カ月間に及ぶ「追及」そのものが病理であり、歴史の厳しい審判を受けるに違いない。石破氏は不支持率の高さを問題にしているが、最近の調査では支持率が再び不支持率を上回っている。国民はこんな些末な事件を以て政権を真に不信任しているのではないのだ。

第一、総裁選の前哨戦としては、これらの安倍批判はあまりにも小さすぎ、逆に、各政治家が内に秘めている国家観、政治への情念、ヴィジョンの不在を露呈していると言う他はない。

ちなみに安倍氏が、前々回の総裁選の1月前、出馬表明に先立ち靖国神社を参拝して取材するマスコミに対して語った言葉は次のようなものだった。

「本日、靖国神社に参拝をいたしました。日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、そして御霊安かれなれと、手を合わせて参りました。

そして同時に、靖国神社の境内にあります鎮霊社にもお参りをしてまいりました。鎮霊社は、靖国神社にまつられていないすべての戦場に倒れた人々、日本人だけではなくて、諸外国の人々も含めて全ての戦場で倒れた人々の慰霊のためのお社であります。

すべての戦争において、命を落とされた人々のために手を合わせ、ご冥福をお祈りをし、そして二度と再び戦争の惨禍によって人々の苦しむことのない時代をつくるとの決意を込めて、不戦の誓いをいたしました。」

第1次安倍政権を病気で退陣した後、安倍氏は袋叩きされ、その後マスコミから黙殺される数年を過ごしていた。この靖国参拝は、安倍氏の久々のマスコミへの登場だった。

総裁選出馬が取りざたされ始めていたとは言え、誰も氏を政局中の人物とは見做していなかった。

過去の人だと思われ、総裁選での勝ち目があると思われていなかったからだ。

それでも安倍氏の発言は総理に返り咲いた後と同様に、国家の代表たる重みと慎重な配慮を示している。

総裁選に直接言及し、政局に言及しなくとも、「国家」と「歴史」を語る事で、総裁選出馬の覚悟がにじみ出ている。

事実、安倍氏が政権に就いて以来、諸々の経済指標は劇的に改善し、日本版NSCと集団的自衛権の解禁により日本は戦後レジームを実質的に脱却した。

安倍政権がこの5年余に上げてきた成果を数えあげたらきりがない。

昨年のデータだが、株価は8,664円(2012/11/14)から2.34倍の20,299円(2017/9/19)へ、失業率は4.2%(2012/12)から2.8%(2017/7)に、有効求人倍率は0.83倍(2012/12)から1.52倍(2017/7)に、税収は41.5兆円(2010年度)から55.9兆円(2016年度)に、名目GDPは499兆円(2010年度)から538兆円(2016年度)に改善している。

少子高齢化による人口激減の局面に入った高度インフラ社会、モノの余っている成長困難な社会で一政権が短期に上げた成果としては、尋常ではあるまい。

経済的成果を生んだことへの国際社会の信頼を元手に、安倍首相は、集団的自衛権の解禁を図り、日米同盟をかつてなく緊密なものにし、その統合的な結果において、大国への野望をみなぎらせる習近平氏の覇権政策に辛うじて抵抗できている。

米中日のGDPは、
2000年には、
日:4,887.52
米:10,284.75
中:1,214.92 だったものが、

2010年に日中が逆転した後も、中国の激増が続き、昨2017年には
日:4,872.14
米:19,390.60
中:12,014.61
となるまで日中格差が広がっている(単位=10億USドル)。

国防費も同様に格差が拡大し続け、AIIBを軸とした海外投資も、アメリカ、オランダに次ぎ3位(日本は4位)となり、一帯一路による中国資本による間接支配と、軍事力強化、更に世界の港湾を買収するなどによって、中国は複合的・戦略的な覇権化を図っている。

日本がこのように中国に各種国力指標で圧倒的に水をあけられるのは、近代史上初めての状況なのである。日本がもし安倍政権でなく、通常の政権力だったならば、経済の低迷と外交発信力のなさが続き、尖閣に対するオバマ、トランプ二代の強いコミットメントはなく、中ロに翻弄され、平和の維持か、独立国家としての矜持の維持かのいずれかを、この数年で失っていた可能性さえ否定できない。

それに加え、北朝鮮情勢の激変だ。

北朝鮮にとって、国際社会で唯一且つ一貫した対北朝鮮強硬派の安倍氏が日本の首相であり、かつ日米蜜月の主役である事ほど邪魔な話はない。

安倍首相が、北朝鮮の核ミサイル開発に関して、就任したばかりのトランプ新大統領にどのような影響力を与えるか否かは、北朝鮮のみならず、アメリカに挑戦し、国際新秩序を構築中の中国にとっても、極度に重大な問題だっただろう。

トランプ氏は外交・政治経験ゼロの民間経営者だ。国務省、CIA、国防総省の何れの外交路線が強い主導権を握るかどうかは、米政権内の綱引き状態だった。

その中で、安倍氏の、アメリカ歴代政府が北朝鮮に欺かれてきたとの強い主張がトランプ氏に与えた影響は決定的だったと私は推測している。

薄氷を踏むような外交戦の、今、只中を、安倍氏は戦っているのである。

この安倍氏に総裁選で挑むならば、それにふさわしい国家観、それにふさわしい政治言語、それにふさわしい総理としての覚悟と準備が必要ではないのか。

戦後かつてなく厳しい国情はまだまだ続くのだ。

そのような中、冒頭取り上げたように、自民党の主要な政治家が森友加計政局に便乗した政権批判を繰り返すようでは情けない。

自民党のお家芸の政局レジームから脱却し、国家観を語る事で、次を睨む人材はいないのか。

そうした党内の空気を醸成する次世代リーダーはいないのか。

総裁選を政局に矮小化するのではなく、安倍政治が確立した、安全保障と外交・経済の統合による新しい日本政治のレジームの後をどう襲うのか。

石破茂レジーム、岸田文雄レジーム、野田聖子レジーム、小泉進次郎レジームとは何であるのか――。

そうした国家観をこそ発信する新たな政治言語の切磋琢磨を、次世代リーダーには強く望みたい。

(平成30年6月27日)

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