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三浦小太郎の「右であれ左であれ我が祖国」

三浦小太郎氏  エルドリッジ・クリーヴァー、極左からの転向者

エルドリッジ・クリーヴァーの名前を知る人、その代表作とされる「氷の上の魂」を読んだことのある人が今どれほどいるのだろうか。私が20代に古書で購入し、今も本棚にある「氷の上の魂」は1969年の初版本、日本でも全共闘運動やベトナム反戦運動の真っただ中に合同出版から発行されており、同社の近著には「学生コミューン」「学生の反乱」「革命=ゲバラは語る」「反権力の世代」などが紹介されている。1968年にアメリカで出版された本書が、約1年後には日本語に翻訳されていることからも(訳者はべ平連や新左翼運動の思想的リーダーの一人である武藤一羊)本書がまさに時代にフィットした著作であることがわかる。

クリーヴァーは1935年に生まれ、青年時代、差別への怒り、白人への憎悪などから犯罪を繰り返し、黒人女性を強姦したという罪で懲役刑を受けた。「氷の上の魂」は、その獄中で、マルコムXをはじめとする黒人運動家の著書、そして左翼文献などを通じて、町の犯罪者に過ぎなかったクリーヴァーが一人の黒人革命家として成長していく過程で書かれたものだ。

本書には単なる黒人差別の告発に留まらぬ魅力を備えた、一種の文学作品として現在読んでもその魅力を失っていない。シュールレアリスムを思わせる幻想的、神話的な挿話を通じた、アメリカ黒人がその原点としてのアフリカに回帰していく精神の遍歴、アメリカ黒人の精神構造が、知らぬうちに白人社会の価値観によってがんじがらめにされていることへの真摯な自己分析、その桎梏からの脱却という精神革命と、現実の白人優位社会を打倒する政治革命を直結させる黒人左翼革命論など、クリーヴァーはフランツ・ファノンやマルコムXの正統な後継者であることがわかる。

そして同時に、次のような言葉がふと書かれているところに、この人が単なる運動家や政治イデオローグを超えた思想家としての力量を持っていることがうかがえた。

「人間を憎むことの代償は、それだけ自分自身を愛せなくなるということなのだ」(『氷の上の魂』)

(平成30年10月10日)

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