THE 正論,  the seiron, THE SEIRON, THE正論

日本を正す!

MENU

阿蒙列車

降りてはいけない海の駅

神奈川県横浜市鶴見区 JR鶴見線

 十年ほど前、海の脇にある海芝浦という駅
に急に行きたくなったことがある。この駅は
京浜工業地帯の工場敷地にある工場労働者
のための駅で、用のない乗客は駅から出られ
ないから、行ったところで何の用事も果たし
ようがないが、東京近郊にこういう駅がある
と知ると行きたくて仕方がない。用もないの
に列車で出かけていくのは内田百閒先生の
境地に達せんとするものである。
 横浜の下町にある鶴見駅から三両の電車に
揺られると、本線に足が生えたような短い支
線に入り十余分で終着駅の海芝浦に着いた。
 当然、何もすることはない。ホームから海
まで一メートルないから、釣り糸を垂れたら
何か釣れそうだが、そんなことをすれば怒ら
れる。改札を出なくても折り返し電車に乗れ
るように、ホームにICカードの簡易改札機
もある。だから切符を買う必要もない。「する
ことないなら、この電車で帰りましょう」。一
緒に乗ってきたアルプス山系君がせかす。来
る時には用がなくとも、帰る時には帰るとい
う用がある。やむなく折り返し電車に乗って
帰ってきた。

 [文・写真] 大竹 直樹

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 大竹直樹

    産経新聞社会部記者。本誌2019年6月号に「反天皇の裁判官、外圧でゴーン〝保釈〟…『法の番人』は本当に公正中立か」を掲載。

閉じる