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阿蒙列車

おはようございます

三重~大阪 近鉄「鮮魚列車」

 まだ夜も明けきらぬ三重県松阪市の松阪
駅に栗色の三両編成が這入ってきた。伊勢湾
の海の幸を大阪へ運ぶ行商人専用の「鮮魚列
車」である。アルプス山系君と私は、魚行商組
合の偉い人に頼み込んで乗せてもらえるこ
とになっている。
 列車は伊勢市の宇治山田駅発であり、すで
に車内では、夜明け前の仕入れを終えた女性
たちが魚介の木箱を置き、弁当をほおばって
いる。そうして、座席で毛布や寝袋にくるま
り寝息をたて始めた。お行儀はよくないが、
専用列車では気兼ねはいらないのである。
 早朝の紀伊半島を一またぎして大阪上本
町駅まで行く列車は途中、いくつかの駅に停
まった。ドアが開いたと思ったら一秒とおか
ずに閉まった駅もあった。行商人の乗降がな
くなって久しいため、一般客が乗らないよう
にすぐに閉めているという。だったら停車し
なければいいが、昔から停車駅は決まってい
るから停まっている。「鉄道はかくも律儀な
り」と感心していると、山系が「いや不器用な
乗り物ですよ」と分かったようなことを言っ
た。 [文・写真] 大竹 直樹

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