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寄稿  PCR検査めぐるフェイクニュース(後半)政策シンクタンク 原英史代表  

■「東京都の陽性率は63%」?
「検査数が異常に少ない」から派生するフェイクニュースは、もはや百花繚乱の様相だ。例えば、4月25日東京新聞が報じた「東京都の陽性率は63%」(4月12~18日
の平均)。https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020042502000247.html

検査した半分以上が陽性というのだから、尋常なことではない。感染爆発の起きているニューヨークでもせいぜい20%程度。「やはり日本は検査数が少ないので異常な状態になっているのか」と多くの人を不安に陥れた。だが、結論からいえば完全に間違いだ。分数の計算で、分子は感染者数すべて、一方、分母は民間検査分など一部除かれた検査数。この計算では比率は出せない。報じた側以上に、情報開示の不十分・不明確だった東京都にも大いに問題があった。その後、都は正しい数値を公開。最も高かった4月上旬で30%程度、5月上旬には5%といった推移がわかりやすく公開されるようになった。結果的に、行政の情報開示の改善につながったのだから、フェイクニュースにも効用はある。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/youseiritsu.files/020511youseiritsu.pdf

■「検査をたくさんやれば死亡者数は減る」
学術論文に基づくフェイクニュースもある。各国のデータから「PCR検査を十分行って、陽性率を7%未満に抑えれば、死亡者数を減らせる」と結論づけた論文には、マスコミの多くが飛びついた。論文が公開された当時、ちょうど「東京都の陽性率」フェイクニュースが出回っていたことも重なり、「日本はこれから危険」と断ずる格好の素材として利用されたのだ。
http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2020/20200421covid19_PCR.pdf

学術論文というと、信頼性と権威の高いものと受け取られがちだ。だが、論文の中には、査読前のものもあることを認識しておいた方がよい。この論文はそれで、査読前論文を広く公開してコメントを受け付けるサイト(preprints.org )上で、「致命的な欠陥がある」「相関関係と因果関係を混同しているのでないか」などの指摘を受け、論争が繰り広げられている最中だ。学術的評価は今後定まっていくだろうから、予断を持ってコメントはしない。ただ、少なくとも、マスコミで一般向けに報じるのは時期尚早だったのでないかと思う。

情報検証研究所では、5月上旬時点での各国の陽性率と死亡者数のデータもとってみた。たしかに感染が拡大している国では、概して陽性率が高く、死亡者数も多いが、これはふつうに考えて自然なことだ。それを超えて「7%を分岐点」に大きな段差があるのかは、データ上は定かでない。国によっては、論文のまとめられた4月半ば以降に、死亡者数の水準が大きく増大したところもある。例えば、陽性率が比較的低水準(現時点で6%程度)のカナダは百万人あたり死亡者数が4月15日は23.9人だったが、5月13日は137.0人になった。世界の感染状況は短期間で激変する。「7%が分岐点」も日々変動しているのかもしれない。
参考:情報検証研究所「『陽性率7%を超えると死亡者数急増』は本当か(続報)」
https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/05/13/123208

ほかにも、「PCR検査を倍にすれば、接触5割減でも14日で収束」との論文もマスコミで取り上げられた。論文をみれば、現実の日本に到底適用できない前提であることが書いてある。ところが、マスコミでは前提を端折って、「今からでも検査を倍やれば、すぐ収束」するかのごとく報じてしまった。論文の問題ではなく、報道がフェイクニュースだ。
参考:情報検証研究所「『PCR検査を倍にすれば、接触5割減でも収束可能』はどこがおかしいか?」
https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/05/10/140033

■極論の応酬は危険
「分極化」現象について正論6月号でも触れた。賛否分かれて議論の繰り広げられる状況では、両側のグループで主張が先鋭化し、極論が支持されがちだ。PCR検査を巡る状況はまさにそれだ。「日本の検査数は異常に少ない」と政府を批判する「拡大派」と、これに抗する「抑制派」。
分極化が、極論とフェイクニュースを次々に生成している。本稿の最初で、日本の感染規模は欧米とはレベルが違うことを示した。これ自体は事実だが、うっかりしていると逆方向に歪んで、「日本はすごい。何も心配ない。外出制限も営業自粛も一切不要だ」という極論に転じてしまう。これはまた危険極まりない。現実に医療の現場からは、医療崩壊ギリギリの状態との悲鳴に近い声があがっている。データ面でみると、特に気になるのが、重症者に対処するためのICUだ。人口十万人あたりのICU数は、アメリカ:34.7、ドイツ:29.2、イタリア:12.5に対し、日本はICUだけなら4.3、ICUに準ずるハイケアユニットなどを含めても13.5だ。ドイツとイタリアの死亡者数の明暗をわけたのがICUのキャパシティだったとすれば、「欧米とは感染規模が違う」といって油断することはできない。
参考:情報検証研究所「“ICU決壊”に備えるべし~欧州の医療崩壊と出口戦略への示唆」https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/05/07/232531

■フェイクニュースをどう封じ込めるか?
「PCR検査」フェイクニュースのオーバーシュートをどう封じ込めるか。これは難題だ。フェイクニュースへの基本的な対処は、言うまでもなく、反論して事実を示すことだ。しかし、厄介なことに、分極化の高まった局面では、反論は必ずしも有効ではない。むしろ逆効果にさえなる。仮に今、政府が「『検査が異常に少ない』は間違いだ」と反論しても、どれだけ有効かは定かでない。おそらく「拡大派」の人たちの多くは、「開き直って自己正当化している。許せない」とますます反発するだけで、冷静に理解を得るのは難しいだろう。だから、第三者機関の役割が重要になる。先月から私が情報検証研究所を立ち上げ、ファクトチェック活動に力を注いでいるのは、こうした機能が社会に不可欠と思うからだ。政府寄りでも反政府でもなく、検査「拡大派」にも「抑制派」にも与せず、あくまで事実に基づく検証活動を行っていく。

政府にも、やるべきことはやってもらわないといけない。そもそも、PCR検査を巡ってここまでの混乱が生じたのは、政府の対応がなっていないからだ。安倍首相は2月29日会見で「お医者さんが必要と考える場合には、すべての患者の皆さんがPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保」すると表明した。ところが、2か月経っても、これが実現していない。医師が必要と判断しても保健所に断られる、何日も待たされるといったケースが起き続けている。一国の首相がフェイクニュースを発している、ありえない状態だ。一日も早く解消してもらわないといけない。そんな状態だから、政府は今、極論を浴びせられても、毅然と否定ができない。迎合して「拡大します」と言い訳するしかない。これがさらに極論を助長する。政府のやるべきことは、
1)「必要な検査が受けられる」を早急に実現すること、
2)一方で、「それを超えた検査は無用」と明確に示し、
「希望者全員検査」「国民全員検査」などの極論を否定
することだ。これをやらない限り、フェイクニュースのオーバーシュートは止まらない。現場にさらに負担をかけ続けることになる。

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